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松江地方裁判所 昭和29年(行)3号 判決

原告 大野賢一

被告 松江税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二八年八月一五日、原告の昭和二七年度分所得税の総所得金額を六一万〇、一八〇円、同税額を一八万九、七五〇円、過少申告加算税額を九、四五〇円、控除すべき源泉徴収額四二一円、税額合計一九万八、七七〇円とした更正処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

原告訴訟代理人は請求の原因として、

「一、原告は昭和二八年三月一一日被告に対し、昭和二七年度分所得税に関する確定申告として、総所得金額を五万一、二一〇円と申告したところ、被告は同年八月一五日に次のとおりの更正処分をした。

総所得金額    六一万〇、一八〇円

社会保険料       二、四五〇円

基礎控除額     五万〇、〇〇〇円

課税総所得金額  五五万七、七三〇円

所得税額     一八万九、七五〇円

源泉徴収額         四二一円

過少申告加算税額    九、四五〇円

税額合計     一九万八、七七〇円(一〇円未満切捨)

そこで、原告はこれを不服として、所得税法第四八条第一項但書に該当する者として同月二八日訴外広島国税局長に対し、審査の請求をしたところ同局長は、昭和二九年一月二九日右請求を棄却する決定をした。

二、しかしながら、本件更正処分は以下の理由により違法であるから、全部取り消されるべきである。

すなわち、原告は松江市北田町において昭和二七年七月末日まで不動産周旋業をしていたもので、同年八月廃業したが、同二七年度の事業所得は次の計算のとおりで、結局損失額一七万七、六〇七円である。

(一)  利益の部

売買差金又は仲介手数料 一三万五、〇〇〇円

内訳  四万〇、〇〇〇円岡三栄堂(有)、玉井樽市関係取引分

二万〇、〇〇〇円的早民政、石川木材(有)関係取引分

五万〇、〇〇〇円森本泉、島根常太郎関係取引分

二万五、〇〇〇円甲斐正三、和田辰蔵関係取引分

合計 一三万五、〇〇〇円

(二)  損失の部

公租公課 一〇万六、九九〇円

運賃      一、三八〇円

光熱費     七、一九三円(木炭代五六〇円、電気料一、六三三円、ストーブ石炭代五、〇〇〇円)

通信費   一万二、六一〇円

交際費   二万九、七七五円(広島館外打合会費その他)

修繕費     五、七六〇円

消耗品費    五、五〇九円

代書費     一、五七〇円

雇人費   三万〇、〇〇〇円

借入金利子 五万六、八二〇円

旅費    一万五、〇〇〇円(玉造伊谷荘、林他三名津森社員大阪出張二回)

合計   二七万二、六〇七円

(三)  差引 損失一三万七、六〇七円

よつて、本訴請求に及んだ。

三、被告主張の別紙記載の売買差益および仲介手数料については、次のとおり反駁する。

(一)  別表番号1の取引については、原告の売却額は被告主張のとおりであるが、取得額が一八万円であるから差引売買益は四万円である。

(二)  別紙番号2の取引は、原告の売却額、取得額ともに被告主張のとおりであるが、扶桑相互銀行から購入資金を借り入れたため利息三万円を支払つたから、差引売買益は二万円である。

(三)  別表番号3の取引については、原告の取得額は被告主張のとおりであるが、売却額は二〇〇万円であり、訴外張が一〇万円を取得し、また取引に介在した林シユンカイが買主から含み金として直接一〇万円を取得してこれを原告に支払わないため、原告は右一〇万円を放棄したから、差引売買益は零である。

(四)  別表番号4の取引については、原告の売却額は被告主張のとおりであるが、取得額が一四万円であり、大改造費用五万円を支出したので、差引売買益は五万円である。

(五)  別表番号5の取引については、原告の取得額は九万円、売却額は一三万五、〇〇〇円、改造費用二万円であるので、差引売買益は二万五、〇〇〇円である。

(六)  別表番号6の取引については、原告の売却額及び取得額は被告主張のとおりであるが、改造費総額三〇万四、二三九円を支出して、山陰不動産(有)に譲渡したもので、差引売買益はない。

(七)  別表番号7・8の各取引は、いずれも原告が廃業した後の昭和二七年一〇月に訴外山陰不動産有限会社のなした取引である。

四、被告主張の農業所得に関する事実中、同主張の田三筆を原告が所有していることは認める。しかしながら、右田地は冷寒害地の段々田地であつて、耕作上不毛に近く、労働力は平田地の数倍も要し、出来上り米作は平田地の五分の一しかない。この田地を耕作してから今日まで約二五年になるが、その間納税の対象となつたことは一度もない。しかるに、昭和二七年度に限り農業所得七万円余を課せられたのは心外にたえず納得できない。

五、被告主張の利子所得が存在することは認める。」

と述べた。

被告指定代理人は答弁並びに主張として、

「一、原告主張一の事実は認める。

二、原告主張二の事実中、原告が昭和二七年七月末日まで同主張の場所で不動産周旋業をしていたことは認めるが、同年八月からこれを廃業したことは不知。

三、被告は本件更正処分において、原告の昭和二七年度総所得金額を六一万〇、一八〇円と認定したが、実際の所得は、

(1) 事業所得     七八万三、九七五円

(2) 農業所得      七万〇、〇九八円

(3) 利子所得        二、一〇九円

合計           八五万六、一八二円

であるから、本件更正処分は適法である。

しかして、右各所得の内訳を示すと以下のとおりである。

(1) 事業所得

原告は不動産取引関係帳簿を備えず、一部取引について断片的メモ領収書等を所持している程度であり、その帳簿書類から事業所得算出は不可能であつたので、被告は原告の申立と外部資料調査からこれを確認した。これによれば原告の得た収入は別表のとおり売買差益九〇万八、〇〇〇円、仲介手数料七万七、五〇〇円である。

これを基礎として収支計算の方法により事業所得を算出すると次のとおり七八万三、九七五円となる。

(一) 利益の部

売買差益         九〇万八、〇〇〇円

仲介手数料         七万七、五〇〇円

合計           九八万五、五〇〇円

(二) 損失の部

公租公課 一〇万六、九九〇円(昭和二六年度分所得に対する事業税一〇万五、七二〇円を加算)

運賃              一、三八〇円

光熱費             二、一四九円

被告の調査の際、原告が記載していた電灯料一、六三三円、木炭代五六〇円、ガス代一、六五五円、水道料四五〇円、合計四、二九八円の二分の一を家事関連費として否認した。(所得税法基本通達二六二参照)

通信費           一万二、六一〇円

交際費             九、七七五円

被告の調査の際、原告は交際費として大国屋(すしや)、いづもや(うなぎ料理)、魚一(仕出しや)、古川(酒屋)等に支払つた飲食費一万九、五五〇円を計上していたので、その接待先、接待内容について説明を求めたが、その内容を明らかにしなかつたため、本来ならば交際費を認める必要はないわけであるが、原告が不動産仲介業を遂行していくのに接待交際費も若干必要であると考えられるので記帳額の二分の一を経費として認めた。(所得税法基本通達二六五参照)

修繕費               七六〇円

昭和二七年六月一三日の曽木屋に対する支払い五六〇円と同月一九日の松尾に対する支払い二〇〇円で、原告が修繕費として記帳していた全額を認めた。

消耗品費            一、四七一円

原告が記帳していた消耗品費四、二七四円のうち、支払事実を確認した田部昭文堂等に対する事務用品の支払金額(昭和二七年四月二八日金一、三七一円、同年七月二二日金五〇円、同月二四日金五〇円の合計)を経費として認めた。

代書費             一、五七〇円

雇人費             八、〇〇〇円

原告が昭和二七年六月二三日的早に支払つた三、〇〇〇円と同月三〇日津森に支払つた五、〇〇〇円の計八、〇〇〇円で、雇人費として記帳していた全額を認めた。

借入金利子         五万六、八二〇円

合計           二〇万一、五二五円

(三) 差引所得金額 七八万三、九七五円

なお、(二)損失の部に旅費を必要経費として計上しなかつたのは、被告の調査の際に旅費の使途、用務等について説明を求め、且つ、関係資料の提示を求めたが、これらの説明等が何らなされなかつたからである。

(2) 農業所得

原告は同所有の後記田地三筆について、農業経営に関する収穫高、必要経費等について記帳しておらず、他に所得金額を確認する方法がないので農業所得標準率を適用し、反当り表作一万〇、九三八円、裏作一、九一七円として計算し、次のとおり農業所得七万〇、〇九八円を算出した。(既往年度分においては課税もれのため課税されていなかつたものである)

西川津町二、八一七番地 一反三畝二五歩

表作            一万五、一三〇円

裏作              二、六五一円

同町二、八一四番地   二反一畝一一歩

表作            二万三、三七〇円

裏作              四、〇九五円

同町二、八一三番地   一反九畝一〇歩

表作            二万一、一四六円

裏作              三、七〇六円

以上所得合計        七万〇、〇九八円

(3) 利子所得

原告の預金口座に昭和二七年度預入となつている銀行利息として、

扶桑相互銀行   七二三円 (原告の帳簿上は雑収入五七九円として計上されているもの)

右同            八四三円

山陰合同銀行            五四三円

以上合計          二、一〇九円

が存在する。

四、右主張についての原告の反駁に対して、次のとおり更に主張する。

(一)  別表番号2の取引について、原告は購入資金借入によりその銀行利息三万円を支払つた旨主張するが、原告は預金等により的早民政に建物代金六五万円を支払つて取得したうえ、石川木材有限会社に譲渡したもので、原告が本件建物を購入するため扶桑相互銀行から資金を借り入れた事実はない。(なお、石川木材有限会社は原告に対し代金として、昭和二七年二月一七日手付金一〇万円、同年四月五日金一二万円、同月七日金三〇万円、同月一一日金一六万五、九二三円の計六八万五、九二三円を支払つた。代金七〇万円との差額一万四、〇七七円は的早民政が支払つていなかつた電気、ガス、水道代等を石川木材有限会社が代払いしたので、これを差し引いたものである。)

仮に、原告がその主張のように利子三万円の支払をしたとしても、右支出は事業所得の算出にあたり経費として控除した借入金利子五万六、八二〇円に含まれているから、重ねて控除する必要はない。

(二)  別表番号3の取引について、原告は売却額が二〇〇万円であるところ、張、林両名が各一〇万円宛取得し転売益はないと主張するが、前田美津枝、張時江について調査するに右売却額が二二〇万円であることは明らかである。被告が当初調査した際、原告が提出したメモに記載されている買受人林宗思、張清聯からの代金授受状況(昭和二七年三月二八日金二〇万円、同年四月四日金九〇万円、同年七月二七日金一〇万円、同年八月七日金二八万円、合計金一四八万円を受領している外、買受人が代金支払に代えて本件建物抵当権者である貸金業実重俊夫に七一万三、一四一円を支払つているので、結局買受人の支払金額は二一九万三、一四一円となる)から考えても、売却額および代金受領額に関する原告主張を認めることはできない。

(三)  別表番号4・5の各取引について、訴外島根常太郎に対する売却額は二五万円であつたところ、被告は修理費一万円を認めて、これを二四万円にしたものであるが、右島根常太郎が昭和二七年六月に本件建物を取得して入居した当時、原告が補修していたと認められるのは、内部の壁、玄関の土間、玄関先の溝の塗り替え程度の改修だけであつた。又、訴外和田辰蔵が取得した建物は、相当荒れていたので、同訴外人は原告にその価額の値下げを要求した程で改築がなされた事実はない。なお別表番号4・5の各建物はもと訴外保証責任松江利用組合の所有であつたが、同組合の解散にあたり組合員である右各建物居住者森本泉、甲斐正三に金八万円、金六万円で各譲渡されたが、同人等がその支払に困り、原告が代つて右組合清算人土谷連之助に支払い、右各建物を取得したものである。

(四)  別表番号6の取引は、被告が当初調査した際、原告から提示されたメモによると佐野信義から二三万八、〇〇〇円で取得し、二一万六、二三九円で改築した後、山陰不動産有限会社に五四万二、二三九円で売却したとのことであつたところ、原告は本訴で右改造費を三〇万四、二三九円が正当であると主張するのであるが、右改造費の差額八万八、〇〇〇円は調査時において何らの申出もなく、従つてその支出を明らかにする書類等も提示されていないのである。仮に、原告が山陰不動産有限会社(原告が代表者となつている同族会社で昭和二七年八月に設立された)の帳簿記載によつて右改造費を主張しているとすれば、それは同会社が架空経費を加算し本件宅地建物の引継価額を故意に高くして同法人が転売した際の所得を少くするとともに、引継価額を高くすることによつて生じる個人の転売益をなくするため、帳簿上の操作をしたというのほかない。

(五)  別表番号7の取引については、原告は昭和二七年一〇月東京生命保険相互会社から三万七、五〇〇円、同年一二月北野哲也から二万五、〇〇〇円計六万二、五〇〇円の仲介手数料を受領している。右手数料は原告の仲介により昭和二七年五月に成立した譲渡契約に対するものであるから、原告が廃業したという同年八月以降に受領していても原告の個人所得となる。このことは右手数料の受入が山陰不動産有限会社の帳簿に記載されておらず従つて同会社の所得には算入していないことによつても明らかである。

(六)  別表番号8の取引は杉村繁吉が本件宅地建物の売却方を原告に依頼していたが、なかなか契約が成立しないので直接交渉をすることにして、昭和二七年五月頃原告にその旨を申出て、原告から買主北野哲也の紹介を受け、その後は直接交渉をしてこれを売買した。そこで杉村は原告に依頼していた間の仲介手数料として、同年九月一万五、〇〇〇円を原告に支払つたものであるから個人所得となる。このことは山陰不動産有限会社の帳簿に記載されておらず従つて同会社の所得には算入していないことによつても明らかである。」

と述べた。

(証拠省略)

理由

一、原告は昭和二八年三月一一日被告に対し、昭和二七年度分所得税に関する確定申告として、総所得金額を五万一、二一〇円と申告したところ、被告は同年八月一五日に、

総所得金額     六一万〇、一八〇円

社会保険料       二、四五〇円

基礎控訴額     五万〇、〇〇〇円

課税総所得金額   五五万七、七三〇円

所得税額     一八万九、七五〇円

源泉徴収額         四二一円

過少申告加算税額    九、四五〇円

税額合計      一九万八、七七〇円(一〇円未満切捨)

の更正処分をなしたこと、そこで原告はこれを不服として、同月二八日訴外広島国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は昭和二九年一月二九日右請求を棄却する決定をなしたこと及び原告は松江市北田町において昭和二七年七月末日まで不動産周旋業をなしていたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、争いのある原告の昭和二七年度の総所得金額につき、

(一)事業所得((1)利益の部(((A)売買差益、(B)仲介手数料))(2)損失の部)、

(二)  農業所得次で(三)利子所得を順次判断する。

(一)、事業所得

(1)、利益の部

(A) 売買差益

〈1〉 別表番号(1)の取引について

原告は別表番号(1)の宅地建物を訴外玉井樽市より買受け、訴外岡三栄堂有限会社に対し代金二二万円で売却したことは当事者間に争いがない。また、右取引が昭和二七年の所得として課税されるべき期間内の取引であることについては原告において明らかに争わない。

そこで、当事者間に争いのある原告の訴外玉井樽市からの買受価額につき考えるに、証人岡広の証言により真正に成立したと認め得る乙第一〇号証によると、本件不動産はもと訴外玉井樽市の所有であつたものを訴外松江中央水産株式会社が右玉井に対する売掛代金一一万三、〇〇〇円余の代物弁済として引き取り、右会社はこれを訴外菊池謙一に売却し、同訴外人は更にこれを訴外山田紋太郎に売却し、原告は右山田よりこれを買受けたことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。また、証人長安憲道の証言によると原告は右買受事実を記帳していないことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかし、右事実から直ちに被告主張のように右買受価額を前記松江中央水産株式会社の売掛債権額とほぼ同一額の一二万円であると推認することはできないし、他に右事実を推認するに足りる証拠もない。

却つて、原告本人尋問の結果によると原告の右買受価額は一八万円であると認めることができる。

従つて、原告の売買差益は前記売却額二二万円より取得額一八万円を差引いた残額四万円である。

〈2〉 別表番号(2)の取引について

原告は別表番号(2)の建物を訴外的早民政より代金六五万円で買受け、訴外石川木材有限会社に代金七〇万円で売却したことは当事者間に争いがない。また右取引が昭和二七年度の所得として課税されるべき期間の取引であることについては原告において明らかに争わない。

ところで、原告は右建物の売買についてその建物の購入資金を訴外扶桑相互銀行から借り受けてその利息三万円を支払つた旨主張し、一方昭和二七年度の事業所得を算出するについてその損失の部として借入金利子五万六、八二〇円を主張しているから、結局原告は同年度の損失として計上すべき借入金利子は金八万六、八二〇円であると主張することに帰するわけである。しかしながら、証人増田郁雄の証言により真正に成立したと認め得る乙第一四号証の一乃至七によれば、原告が同年一月から後記認定の如く不動産周旋業を廃業した同年八月までに前記銀行に対して支払つた利子は合計金三万九、七一三円であることが認められるが、同証人の証言並びに同証言によつて真正に成立したと認められる乙第一三号証の一乃至八によれば原告において借入金利子に関しては何等の記帳もしていないことが窺われるから、原告の昭和二七年度の損失として計上すべき借入金利子は右の金三万九、七一三円以上にはないと推認さざるを得ない。しかして被告は原告の昭和二七年度の損失として計上すべき借入金利子については原告主張の五万六、八二〇円を認めているところ、同金額中には右の金三万九、七一三円が含まれていることは弁論の全趣旨に徴して明らかであるから、結局原告が別表番号(2)の建物の売買について、その建物の購入資金を前記銀行から借り受けてその利息三万円を支払つた事実は存在しなかつたと推認することができる。

従つて、原告の右売買差益は被告主張のように五万円である。

〈3〉 別表番号(3)の取引について

原告は別表番号(3)の建物を訴外前田美都枝より代金一八〇万円で買受け、訴外林宗思及び張清聯に売却したことは当事者間に争いがない。また右取引が昭和二七年度の所得として課税されるべき期間内の取引であることについては原告において明らかに争わない。

そこで、当事者間に争いのある原告の売却価額につき考えるに、証人中野誠一の証言により真正に成立したと認め得る乙第三号証、証人増田郁雄の証言により真正に成立したと認め得る同第二号証及び同第一一号証、証人長安憲道の証言により真正に成立したと認め得る同第一二号証の四と証人中野誠一同増田郁雄同長安憲道の各証言を合せ考えると、原告は買主である訴外張清聯外一名に対し本件建物を二二〇万円で売却したこと及び右売却に際して右張及び仲介人の林シユンカイが右売却代金のうち各一〇万円を取得した旨の原告の主張事実は存在しなかつたことを推認することができ、右推認に反する証人渡部新四郎及び同葛上清の証言並びに原告本人尋問の結果中右推認に反する部分は措信できず、他に右推認を覆すに足りる証拠はない。

従つて、原告の右売買差益は被告主張のように四〇万円である。

〈4〉 別表番号(4)の取引について

原告は別表番号(4)の建物を訴外森本泉より買受け、訴外島根常太郎に代金二四万円で売却したことは当事者間に争いがない。また右取引が昭和二七年度の所得として課税されるべき期間内の取引であることについては原告において明らかに争わない。

そこで、争いのある訴外森本泉よりの買受価額につき考えるに、原告本人尋問の結果及びその方式趣旨より公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四号証によると原告は本件建物を訴外森本から八万円で買受けたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

次に、証人島根常太郎の証言によると原告は本件家屋を訴外島根常太郎に売却するために、壁の塗りかえ、障子の張りかえ、畳の裏がえし、玄関の下水及び裏の一坪余の土台のセメント工事等約四万円相当の修理をなしてはいるが、右修理に要した費用は本件建物の売却代金に加算し、買受人である右訴外島根から支払を受けている事実を認めることができ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、原告の右売買差益は被告主張のように一六万円である。

〈5〉 別表番号(5)の取引について

原告は別表番号(5)の建物を訴外甲斐正三より買受け、訴外和田辰蔵に売却したことは当事者間に争いがない。また右取引が昭和二七年度の所得として課税されるべき期間内の取引であることについては原告において明らかに争わない。

しかし、原告は買受価額及び売却価格につき争い且つ、同建物の修理費に二万円を要したと主張するので考えるに、その方式及び趣旨より公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四号証によると原告は本件建物を訴外甲斐正三より六万円で買受けたことを認めることができ右認定を覆すに足りる証拠はない。次に証人和田辰蔵の証言及び同証言により真正に成立したと認め得る乙第八号証によると、原告が本件建物を訴外和田辰蔵に売却する際右建物は修理のなされないままになつていたこと及びその荒れ方が余りにひどいので原告は、右和田より売買代金の減額交渉を受けたがこれを拒絶し、当初の売買価額一九万五、〇〇〇円で売却したことを認めることができ、右認定に抵触する証人加藤光義の証言は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、原告の右売買差益は被告主張のように少くとも一一万円存在する。

〈6〉 別表番号(6)の取引について

原告は別表番号(6)の建物及び宅地を訴外佐野信義より代金二三万八、〇〇〇円で買受け、訴外山陰不動産有限会社に代金五四万二、二三九円で売却したことは当事者間に争いがない。また、右取引が昭和二七年度の所得として課税されるべき期間内の取引であつたことについては原告において明らに争わない。

しかし、原告は右建物を売却するために修理費三〇万四、二三九円を要したから売買差益はないと主張するので考えるに、成立に争いのない乙第一五号証、証人飛田義忠、同長安憲道の各証言によると、右建物に要した修理費は二一万六、二三九円であると認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、原告の右売買差益は被告主張のように八万八、〇〇〇円である。

〈7〉 売買差益の総計

以上〈1〉乃至〈6〉の売買差益の総計は八四万八、〇〇〇円である。

(B) 仲介手数料

〈1〉 別表番号(7)の仲介について

原告は別表番号(7)の建物及び宅地を所有者訴外北野哲也が訴外東京生命保険相互会社に売却するにつき仲介をなしその手数料として右訴外人より六万二、五〇〇円を受領したことは原告において明らかに争わない。

しかし、原告は、右仲介は原告が不動産周旋業を廃業したのちの昭和二七年一〇月に訴外山陰不動産有限会社のなした仲介であつて、ただ原告は会社のために手数料を受領した旨の主張をするので考えるに、証人北野哲也の証言により真正に成立したと認めることのできる乙第六号証によると、別表番号(7)の不動産の右売買契約は、原告の仲介によつて廃業前の昭和二七年五月に成立したことを認めることができ、右認定に牴触する原告本人尋問の結果の部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。思うに、不動産周旋業者が不動産売買の仲介を引受ける契約の通常の内容は、業者は右売買契約の成立に尽力する義務を負い、一方依頼者は右契約の成立に対して報酬を支払う義務を負うと解すべきであるところ、本件についてはこれに反する特段の事情もないから依頼者は原告に対して売買成立の日である昭和二七年五月に仲介手数料の支払債務を負うから、原告の右手数料債権は右期日において確定し、所得税法上のいわゆる「収入金額」に該当する。

次に、証人飛田義忠及び同長安憲道の各証言並びに原告本人尋問の結果によると、原告は昭和二七年八月中旬に不動産周旋業を廃業し同月二〇日頃訴外山陰不動産有限会社を設立して右業務を引継いだ事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、本件仲介手数料六万二、五〇〇円は被告主張のように原告の昭和二七年度所得の課税対象となる。

〈2〉 別表番号(8)の仲介について

原告は別表番号(8)の建物及び宅地を所有者訴外杉村繁吉が訴外北野哲也に売却するにつき仲介をなし、その手数料として右訴外杉村より一万五、〇〇〇円を受領したことは原告において明らかに争わない。

しかし、原告は、右仲介は原告が不動産周旋業を廃業したのちの昭和二七年一〇月に訴外山陰不動産有限会社のなした仲介であつて、ただ原告としては会社のために手数料を受領したのに過ぎないと主張するので考えるに、証人杉村繁吉の証言及び同証言により真正に成立したと認めることのできる乙第七号証によると、訴外杉村繁吉は原告に対し昭和二七年五月頃自己所有の本件不動産売却の斡旋を依頼し、原告は右依頼によつて同年九月初旬頃右杉村に対し買受人として訴外北野哲也を紹介したこと、ところが、右杉村と北野はかねてから眤懇な相柄であるところから右売買につき原告に手を引いて貰うことを決め、その頃訴外人等と原告との間にこれまでの仲介手数料として原告に一万五、〇〇〇円を支払う旨の約定がなされたことを認めることができ他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右事実によれば本件仲介手数料の債権が確定したのは昭和二七年九月初旬頃といわざるを得ない。

次に証人飛田義忠及び同長安憲道の各証言並びに原告本人尋問の結果によると、原告は昭和二七年八月中旬不動産周旋業を廃業し同月二〇日頃訴外山陰不動産有限会社を設立し同社に自己の業務を引継ぎ同社役員となつたこと及び右期日後なされた原告の不動産売買の斡旋行為は右訴外会社の業務執行と認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、この点に関する被告の主張は失当である。

(2)  損失の部

(A) 公租公課 一〇万六、九九〇円

(昭和二六年度所得に対する事業税一〇万五、七二〇円を加算)

運賃      一、三八〇円

通信費   一万二、六一〇円

代書費     一、五七〇円

借入金利子 五万六、八二〇円

右各費用がいずれも必要経費として計上されることは当事者間に争いがない。

(B) 光熱水道費

必要経費として計上される光熱水道費を二、一四九円の範囲内で認めることは当事者間に争いがない。

次に証人増田郁雄の証言により真正に成立したと認めることのできる乙第一三号証の六によれば、原告は昭和二七年度にガス代一、六五五円、電灯料一、六三三円、水道料四五〇円、木炭代五六〇円合計四、二九八円の支出をなしていることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、被告は右経費には家事使用分が含まれており、その割合が不明なのでその二分の一を否認すると主張するが、証人増田郁雄の証言によつても右経費中に家事使用分が含まれていると認めさせるに十分でなく、その他本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

従つて、必要経費として計上される光熱水道費は四、二九八円とすべきである。

(C) 交際費

必要経費として計上される交際費を九、七七五円の範囲内で認めることは当事者間に争いがない。

証人増田郁雄の証言により真正に成立したと認めることのできる乙第一三号証の二及び八によると、交際費として昭和二七年二月三日大国屋に一、四一五円、同月二八日大国屋に八五五円、三月一五日いづも屋に一、六五〇円、四月五日大国屋に一、三七〇円、同月末あなみに一、六九〇円、同月三〇日大国屋に六五五円、六月一日大国屋に一、二七〇円、同月三〇日いづも屋に一、一〇〇円、七月八日魚一に八〇五円、七月三〇日大国屋に八七五円合計一万一、七三五円を支出したことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、証人増田郁雄の証言によると原告は右接待の接待先、接待内容について調査係官である訴外増田郁雄に明らかにし弁明すべき充分な機会があつたのに拘らず、何らこれをなさなかつた事実を認めることができ、右事実によれば一応前記接待費の大半は営業上の接待によるものでなく個人生活上の接待によるものと推認することができ、他に右推認を覆すに足りる証拠はない。

従つて、必要経費として計上される接待費は、当事者間に争いのない九、七七五円とすべきである。

(D) 修繕費

必要経費として計上される修繕費を七六〇円の範囲内で認めることについては当事者間に争いがない。

証人増田郁雄の証言によつて真正に成立したと認めることのできる乙第一三号証の七によると原告は修繕費として昭和二七年六月一三日昭和曽木屋に五六〇円、同月一九日松尾豊郎に二〇〇円合計七六〇円の支払をなしたのみでそれ以外に修繕費は支出された形跡なく支払はなかつたものと推認することができ、他に右推認を覆すに足りる証拠はない。

従つて、必要経費として計上される修繕費は、被告主張のとおり七六〇円とすべきである。

(E) 消耗品費

必要経費として計上される消耗品費を一、四七一円の範囲で認めることについては当事者間に争いがない。

証人増田郁雄の証言によつて真正に成立したと認めることのできる乙第一三号証の四によると原告は消耗品費として昭和二七年四月二八日田部昭文堂に一、三七一円、七月二二日小村昭文堂に五〇円、同月二四日同じく小村昭文堂に五〇円、同月三一日昭文堂及び其の他に二、八〇三円合計四、二七四円を支払つた旨記帳されおるから、原告の営業の規模に照らし一応原告は右金額を支払つたと推認することができ、右推認を覆すに足りる証拠はない。

確かに、証人増田郁雄の証言及び前記乙第一三号証の四によると原告は七月三一日昭文堂及びその他に二、四〇三円支払つたことについての領収書を所持していない事実を認めることができるが、しかし特段の事情がない限り単に原告が領収書を所持していないという一事をもつて前記推認を覆すことはできない。又特段の事情を認めるに足りる証拠もない。

従つて、必要経費として計上される消耗品費は原告主張のとおり四、二七四円とすべきである。

(F) 雇人費

必要経費として計上される雇人費を八、〇〇〇円の範囲で認めることは当事者間に争いがない。

証人増田郁雄の証言によつて真正に成立したと認めることのできる乙第一三号証の三及び八によると原告は六月分給料として昭和二七年六月二三日的早に三、〇〇〇円、同月三〇日津森に五、〇〇〇円、合計八、〇〇〇円支払をなしたのみで、それ以外に雇人費は支出されていないことを推認することができ、他に右推認を覆すに足りる証拠はない。

従つて、必要経費として計上される雇人費は被告主張のとおり八、〇〇〇円とすべきである。

(G) 旅費

原告は必要経費に計上すべき旅費一万五、〇〇〇円(玉造伊谷荘林外三名、津森社員大阪出張二回)の存在を主張するが、本件全証拠によるもこれを認め得ない。却つて、証人増田郁雄の証言により真正に成立したと認めることのできる乙第一三号証の一乃至八によると、他の必要経費については殆ど記帳しているのに特段の事情もないのに右旅費は記帳されていない事実を認めることができ、右事実によると旅費の支出はないと推認することができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、必要経費に計上される旅費は被告主張のとおり存在しない。

(H) 必要経費の総計

(A)乃至(G)の必要経費として計上される総計は二〇万六、四七七円である。

(3)  差引事業所得額

(1)の売買差益総額八四万八、〇〇〇円と仲介手数料六万二、五〇〇円の合計額より(2)の必要経費総額二〇万六、四七七円を除した残額七〇万四、〇二三円である。

(二)、農業所得

原告が、次の田地を所有していることについては当事者間に争いがない。

(イ) 松江市西川津町二、八一七番地 一反三畝二五歩

(ロ) 同     町二、八一四番地 二反一畝一一歩

(ハ) 同     町二、八一三番地 一反九畝一〇歩

証人長安憲道の証言及び同証言によつて真正に成立したと認めることのできる乙第一二号証の三によると原告は前記田地を昭和二七年にても耕作していたが、農業経営に関する収穫高、必要経費等については全然記帳しておらないため被告としては所得金額を確認する方法がないので、広島国税局作成の田畑所得標準率表を適用して

(イ)の田地につき表作一万五、一三〇円、裏作二、六五一円

(ロ)の田地につき表作二万三、三七〇円、裏作四、〇九五円

(ハ)の田地につき表作二万一、一四六円、裏作三、七〇六円

以上所得合計七万〇、〇九八円

を算出したこと及び右所得標準率表の適用につき被告側は田の耕作面積については市役所及び税務署に備付けの農地台帳で確認したが、田の位置及び耕作条件については何等確認の方法をとらなかつたことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで原告本人尋問の結果によると右田地は冷寒害地の段々田地であつて耕作上不毛に近く労働力は平田地の数倍を要し、その労働賃金(他人を雇つて耕作させている)が非常にかかる実状にあるから、所得はなくいままで納税の対象となつていなかつたことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、所得標準率を適用してした被告の主張の農業所得の所得金額はこれを認めるに由ないといわざるを得ない。

(三)、利子所得

原告の預金口座に昭和二七年度預入となつている銀行利息として、扶桑相互銀行より七二三円と八四三円の二口、山陰合同銀行より五四三円以上合計二、一〇九円を収入したことは当事者間に争いがない。

(四)、原告の昭和二七年度総所得金額

(一)の差引事業所得額七〇万四、〇二三円に(三)の利子所得額二、一〇九円を加算した七〇万六、一三二円である。

三、以上の認定のように原告の昭和二七年度総所得金額は七〇万六、一三二円であるところ、被告の昭和二七年四月一五日になした更正処分は右金額より九万五、九五二円少額の六一万〇、一八〇円を原告の昭和二七年度総所得金額となし、これに対する所得税額として諸控除額五万二、四五〇円(原告において明らかに争わない。)を控除した課税総所得金額五五万七、七三〇円に所得税法第一五条第一、第三項の規定による所得税額表(昭和二七年三月三一日法律第五三号)によつて所得税額一八万九、七五〇円を算出し、そして、これに対する過少申告加算税として所得税法第五七条第一項(昭和二二年三月三一日法律第二七号)により、原告は昭和二七年度の申告総所得金額を五万一、二一〇円(当事者間に争いがない。)としたので、諸控除をすると欠損となり申告税額は零となるので、右所得税額(千円未満を切り捨てる。)に税率一〇〇分の五を乗じて九、四五〇円を算出し、その結果、税額合計を右所得税額一八万九、七五〇円、右過少申告加算税額九、四五〇円、源泉徴収額四二一円(原告において明らかに争わない。)を加算し、一九万八、七七〇円(一〇円未満切り捨てる。)となしたものでもとより正当である。

従つて、右被告のなした更正決定は有効であつて、原告の本訴請求は理由がなく失当として棄却すべきである。

よつて、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 五十部一夫 谷清次 山口和男)

(別紙)

番号

物件の所在

種類

新所有者

元所有者

原告の売却額

原告の取得額

被告主張の売買差益又は仲介手数料

被告主張分

原告主張分

被告主張分

原告主張分

1

寺町三九~四〇 宅地建物

岡三栄堂(有)

玉井樽市

二二〇、〇〇〇

同上

一二〇、〇〇〇

一八〇、〇〇〇

一〇〇、〇〇〇

2

和田見町二〇五 建物

石川木材(有)

的早民政

七〇〇、〇〇〇

同上

六五〇、〇〇〇

同上

五〇、〇〇〇

3

寺町一九八の一 建物

林宗思外一

前田美都枝

二、二〇〇、〇〇〇

同上

一、八〇〇、〇〇〇

二、〇〇〇、〇〇〇

四〇〇、〇〇〇

4

幸町元山七九八 建物

島根常太郎

森本泉

二四〇、〇〇〇

同上

八〇、〇〇〇

一四〇、〇〇〇

一六〇、〇〇〇

5

幸町 建物

和田辰蔵

甲斐正三

一七〇、〇〇〇

一三五、〇〇〇

六〇、〇〇〇

九〇、〇〇〇

一一〇、〇〇〇

6

石橋町九一 宅地建物

山陰不動産(有)

佐野信義

五四二、二三九

同上

二三八、〇〇〇

同上

八八、〇〇〇

以上売買差益合計 九〇八、〇〇〇

7

雑賀町六丁目 宅地建物

東京生命

北野哲也

六二、五〇〇

8

雑賀町六九一 宅地建物

北野哲也

杉村繁吉

一五、〇〇〇

以上仲介手数料合計 七七、五〇〇

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